Masuk19.
第伍話 お仕置きリーチ
津田沼の『陽』では何度も依頼されていて椎名は既にお客さんの名前や雀風(じゃんぷう)、力量に至るまでほぼ全てを把握していた。
この日、下家は横田さん(78)上家は小野寺さん(72)という高齢者卓だった。対面は新人メンバーの上籠(うえごもり)ユキオ。
現在小野寺さんの親番で椎名が3索を捨てた。
その3索を見て横田さんは止まる。考え込んでいる。鳴くか、否か。すると。
「ポン!」
そこに明らかなジャマポンが入る。小野寺さんだ。横田さんは確かに発声してないからポンで横取りされても文句を言うことは出来ない。出来ないが、明確に悩んでいる人がいるのにその行為は優しくない。そしてツモの順番が変わった直後に椎名にテンパイが入る。
椎名手牌 切り番
二四伍伍六六七七④⑤⑥⑥⑥6
三萬は既に2枚切れ。本来ならテンパイ取らず。待ちがアガれそうだとしてもダマテンでいい手だが、今回はこれをリーチ。これが椎名の持ち技の1つ『お仕置きリーチ』だ。
意地悪なジャマポンなんかした結果リーチされたら鳴いた本人も(失敗した!)と感じるし、他の2人も(いらないことするから!)という視線でブーイングをいれがちになる。
これでもしツモでも決めようものなら(次からはジャマポンはやめとこう……)という気持ちが湧くのが人間の心理というもの。
本来はルール違反でもなんでもないのに。それをやったら良い結果にならないという経験をすることでジャマポンする人が減っていき不自然なほど優しいグループになっていくのだ。
そして当然だが、不自然に優しい麻雀はカモにされるだけ。
お仕置きは平和を守るためにやるのではない。自分が勝ちやすいグループを作るために相手の思考回路すら調整する。それが仕事で麻雀をする打ち手ということなのだ。
「ツモ!」
二四伍伍六六七七④⑤⑥⑥⑥ 三ツモ
「裏裏で3000.6000の2枚!」
このアガリで津田沼の『陽』は完全に椎名に支配されたのだった。
117.第三話 魔力丼大盛りで「ちょっとー。スノウ! ひとりで行かないでくださいヨー。私の加護(バリア)が届く範囲から出ないでくだサイ」「あ、エル。ちょうどいい所に」「町から出る時は言って下サイ。外は危ないんだカラ」「危ない? モンスターでもいるの?」「ここは田舎なんで、普通にノラの動物たちがイマス。狩人でもないスノウが野生生物と遭遇したら最悪死ぬわヨ?」「えっ、そんな危険なの? でもそれならエルは大丈夫なわけ?」「こう見えて私には高度な性能のバリアがしてあるし武装もしっかりしてるからダイジョウブ」「武装? そうは見えないけど」「いまのこれは『見た目装備』だから。私の武装は見た目がゴツいから好きじゃないノ。最強装備をしているんだけどそれは隠してるってコト」「へぇ、なんかゲームの世界みたいね」「ゲーム?」(あっ、そっかあ。マージにはテレビゲームがないんだった。ていうかテレビもないもんね)「いやまあ、地球にはそういう魔法とか不思議な力の世界のおはなしがあるのよ。現実にはできないんだけどね」「でも、ジドウシャとかバスとかチキュウには不思議なものが多かったワ。マージにはないものばかりで心底驚いたんだカラ」(そっか、マージは魔法があるから科学は発達しなかったのかな。そう考えると魔法も良し悪しね)「あっ、そういえば私の前にいきなり現れたことあったわよね。あの瞬間移動みたいなので次の場所まで行くことはできないの?」「あー、アレねェ。私は時空超えて移動も出来るから次の街まで行くのも造作もないけど、それならご飯にしない? 私いま魔力量が少ないから魔力質になるご飯食べないトネ」(『魔力質』になるご飯……? 糖質とか脂質みたいなもんなのかな) 私たちは一旦また食堂に戻ってごはんにした。「すいません、魔力丼2ツ」
116.第二話 麻雀小説「エルー、エルー」「なんでスカ?」「そろそろ隣町くらいまでは探検したり、ミサトを探したりしたくて……歩幅がこれだとめちゃくちゃ時間かかるから人の姿に戻して欲しいんだけども。人間サイズの服ってどうやったら手に入るかな?」「うん? 服は姿を戻した時に人間時着てたものに一緒に変わりますヨ」「ええっ? 勘違いしてたー。私、服問題があるから戻してもらわなかっただけなのに。早く言ってよ、不便なのよ、もう」「ま、ま、なんにしても少し町を離れた所で変身解除した方がいいですヨ。この辺は本当にクリポンしかいなくて、私も少し目立ってるくらいだから。どこの誰? とか突っ込まれても面倒でショ?」 エルはもっともらしいことを言ってごまかした感じだった。多分、単に戻し忘れてただけだと思う。だってこの町はみんな優しいもん。いまさら私が姿変えたところで意地悪したり敵対したりするとは思えない。 その日の午後。 いつも通り私はみんなに麻雀を教えた。今日の生徒たちは優秀で『スジの概念』を完全に理解してくれた。「そうかあ、麻雀は456などの数字が連続した形(順子)が面子構成に1番効率的だからそれを作るための種として45などのリャンメン待ちを作ってくべきで、捨てた牌で待っている場合ロンは出来ないというルールをそこに加味すると切った牌の3個先はロンされにくいということになるのか~」「飲み込み早くて先生は助かります」 どういう事かというと メンツ構成は同じ牌3個で作るコーツと連続した数字で作るシュンツがあり、同じ絵柄の牌は4枚しかないので4枚中3枚自分で集めるコーツで勝負するのは完成率が低い。なので基本的にシュンツの作成で手を作るものなのだ。 そうなるとシュンツの種を作らな
115.ここまでのあらすじ 飯田ユキと井川ミサトは交通事故寸前で助けられ異世界へと転移する。しかし2人は別々の場所に飛ばされてしまった。 ユキは『スノウ』と名を変えて、自分は神様だと言う女『エル』と共にこの世界に麻雀を普及させる活動を行うことに。 一方ミサトは神様の相棒であるリス仙人『キュキュ』と共にユキを探す旅に出る。 【登場人物紹介】飯田雪(スノウ)いいだゆき主人公。井川ミサトと旅をしている最中に気付けば異世界へと飛ばされていた。本作品内ではスノウと名乗る。井川美沙都いがわみさと飯田雪の親友で麻雀の師匠。異世界に飛ばされてしまった。頼れるリスを相棒にしてユキを探す旅に出る。エル異世界の神様。世界をもっと良くするために麻雀の伝道師となる人物を地球から連れてきた。キュキュ異世界の仙人。知識豊富で使える魔法も多い少年。だが魔力を使い過ぎるとたちまち少年からリスになってしまうという欠点がある。ミサトの肩に乗りながら旅に同行する。その4第一話 伝説の巫女『ヨシエ』 ――約8年前。地球にて「はい、これ。ヨシエが欲しがってたスノウドロップの球根。私が負けたらあげる約束だからね、好きなだけ持っていっていいよ」「いいの? じゃあ持てるだけ持っていこう♪」
114.第六話 麻雀牌生成 ミサトの書いたエッセイ記事は読みやすい大きめな文字で1話2000字ほどにまとめ、それに麻雀牌の挿し絵を描いて創刊号は特別価格とし無料同然で配布することに決めた。まずは読んでもらえないと話にならないから。 そして、最後に ――この物語が面白いと思った方はこれを次の人に回してください。なお、こちらのファンクラブ登録をしてくださると次回作の完成通知を送らせていただきます―― と添えた。元々これをきっかけにして麻雀を広めるのが目的であって本の売り上げで儲けようという意図はないので人に回し読みされた方が都合がいいのだ。 とは言え、2話目からはもう少しお金を取るようにするが。「ミサト、頑張るねえ。仕事し過ぎじゃない?」「私は元からこうだから。出来ることはやる。怠けない。それが私の生き方なの」「って言ったってその疲れた身体で生成魔法使ってたら本当に気絶しちゃうからね」 実はミサトは生成魔法で少しずつ麻雀牌を作っていた。1日に2枚ほどのペースで、主に食後にすぐやっていたが最近では慣れてきたのもあり毎日4枚生成していた。「大丈夫大丈夫。鍛えてるから。私の体力は女流プロでもナンバーワンって言われてたのよ?」 そう言っていたが次の瞬間「あ…… あれ?」 ミサトはクラリと立ちくらみをした。「わわっ!」 よろけるミサトをサッと支えるキュキュ。「もう、いま僕がリス姿だったら大変だったよ。無茶しないで、今日の生成はやめなよ」「……そうね、筋トレして寝ることにするわ」「いや、すぐ寝
113.第伍話 ミサト、魔法を受け取る ミサトは書いていた。1日に2度ほど食事に出て、その帰りにキーボードのあるステージで演奏しておひねりをもらい。あとは宿でひたすら書いた。「ねえキュキュ、キーボードはどの街にもあるの?」「流行ったからねえ、多分どこでもある。よほど田舎ならわからないけど『街』と言えるくらいの都市ならあると思うよ」「ふうん、助かるわ。おかげで暮らしていける。にしても暑いわね。太陽らしき星はあんなに小さいのに……」「あとで服を買いに行こう。マージの気候に合った薄着を買った方がいいよ」「そうね」 マージの気温は日本より暑く、外で演奏する度にミサトは汗をかいていた。「ねえ、キュキュ。せっかくの異世界なんだから私も魔法とか使えるようになったりしないの?」 ミサトはこの世界で自分だけ魔法が使えないことに気付いたようだった。大なり小なりみんな魔法は使っている。子供でも魔力はあるようだった。「え? 必要ないじゃん。それとも何か魔法でやりたいことでもあるの?」「ちょっとね、欲しいものがあって」「それなら買えばいい」「売ってないのよ、この世界には」「なるほど、生成の魔法を使いたいんだ? それなら僕の手持ちの魔法だからあげてもいいけど、でもあれは大魔法の部類に入るから使うとかなり疲れるよ」「あげてもいいって…… 魔法って譲渡できるの?」「うん、この半透明のシールを貼れば大丈夫。そっか、ミサトは知ってるわけないよね。魔法はね伝授することもできるけど、基本はシールで売ってるんだ」
112.第四話 一石二鳥の構え「ねえ、ここはこんなに広いのに娯楽は音楽とダンスしかないの? 他にも少しくらいはあるでしょう、ここまで文化的な世界ならさ。マジメな人しかいないにしてもマジメならマジメなりの、そういう娯楽もあると思うのよ」 食事を済ませて元気になったミサトは少年姿のキュキュと街の中を探索していた。「例えば、何?」「んー……読書とか?」「あっ、なるほど! それはいい考えだね、たしかに読書は時に興味深いよね。ああそうか、読書って娯楽になり得るのか。この世界には教科書みたいな本が多いんだけど、勉強になるばかりが本じゃない。これはもしかしてビジネスチャンスかもしれない」「えっ、キュキュが本でも書くの?(リスなのに)」「まさか! ミサトが書くんだよ。翻訳はやってあげるからさ」「は? えええええーーー?!」──── 紙とペンを購入。「さっ、どうぞ先生」「いや、そんな事いきなり言われてもね……なにを書いたらいいのやら。さっぱりわからないわよ」「バカだなミサト、意外と頭カタイんだね。考えてもみなよ、ミサトは僕からすれば異世界人なんだから、元いた世界の想い出でも書けばいいんだよ。それってつまり異世界冒険小説なわけだから」「そ、そうか。エッセイでも書けばいいのね。……分かった」(そう言えば、地球にいる時ユキもよくパソコンで書いてたっけな。いや、ユキだけじゃない……) ミサトは麻雀部のみんなで研究資料を作っていた頃を思い出しながら自分自